Masuk34.
第四話 アキラとユリコ
アキラには高校時代から付き合っている女性がいた。小中高と同じ学校の同級生で高校3年間同じクラスだった東野(ひがしの)ユリコ。
ユリコは成績優秀で容姿端麗。ツインテールなどの個性の出る髪型をしてもどれもとても似合っていて、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿はユリコさま。と言われるくらい美しく、可愛らしい女性だ。
ユリコは小学生の頃からずっと勉強に運動にと精一杯頑張る子供だった。班長や学級委員は必ず立候補したし引き受けた。普通じゃない良い子過ぎる子供。それには理由があった。
ユリコの母は知的障害者なのである。
ある日まだ小さかったユリコが幼稚園の帰り道で鉄クズを拾った。子供ならよくあることだ。だが、それを見ていた他の子の母が、なんで捨てさせないのかしら。これだから東野さんは…と、自分の母をけなしていたのを忘れられない。
97.第三十四話 集結の地 エリやリカが可愛くないわけではなかった。むしろ2人とも美人で2人を目当てで来てる男性客だって間違いなくいた。しかし、アヤノはクオリティが高すぎた。ギャルのような見た目からは予想のつかない丁寧な言葉や対応。高身長のモデル顔負けなスタイルによる存在感。しかも料理上手で相手の好みも全て看破する記憶力のよさ。そして麻雀にも精通しているので褒め所をわかっている。素晴らしい麻雀を見たら素直にそれを「凄い!」と言って褒めてくれる。 アヤノ狙いの男性客が増えるのはあっという間の事だった。 どこで噂を聞いたのか、虹牌に来ていた客もアヤノ目当てで来るようになり早番の時間帯は0.5のレートも流行り始めた。 それにより人手不足に拍車がかかり、0.5専門で裏メンバー、いわゆるサクラを雇った。ただ麻雀が好きなだけで労働をしたくはないしリスキーなのもヤダという人には絶好の条件を出してマルに協力してもらうことになった。マルが出れない時はマルがチンピラだった時からずっとつるんでるユースケにサクラをやってもらう事にして何とか0.5のレートも対応出来るようにした。 こうして、丸山圭一郎プロと田中裕介が裏スタッフとして富士2に加わった。「ずいぶん楽な仕事ですけど、本当に俺らでいいんですか?」とマルはメタに聞いたが「いいんじゃないか? キミらはコテツに選ばれた時点でラッキーなんだよ。あいつは人を幸運に導く福の神みたいな所があるからな。貰っていいよと言われた幸運は遠慮なく受け取っておけばいい」と言ってメタは自分が誘われた時の事を思い出していた。(ほんと、あいつは導いてくれるよな) 富士2は導かれし者たちの集結の地なのかもしれない。そんな事をメタは思った。◆◇◆◇ 一方でシオリはというと、2人の女流プロのことを思い出していた。
96.第三十三話 新しい看板娘 アヤノは音楽が好きだ。有線放送の音楽が聴こえるスピーカーの真下あたりにいつもアヤノは立っている。スピーカーは2箇所にあるのでそのどちらかの下がアヤノの定位置だ。 気に入った曲が流れているとそのまま聴き入り、あまり好きな曲が多くない時はチャンネルを変える。そのチャンネルの変え方が素晴らしかった。 アヤノは有線放送のチャンネルボタンを握りしめながら待機していた。何を待っている……?「なにしてんの?」と聞くメタ。「ちょっとタイミングを待っていまして……」アヤノはそう言って有線のチャンネルメニューをじっと見ている。 ゴザーーー! ジャラジャラジャラジャラ! 局が終了して牌を自動卓に流し込む音がした、その瞬間! ポチポチッ アヤノが有線のチャンネルを2つ回した。(なるほど、急に音楽が変わると聴いていた人が気にするから有線が聴こえない牌の音がうるさいタイミングでチャンネルを変えるのか。そこまで気が回るとは凄いな) また、ある日はアイスコーヒーのブラックを注文され、グラスにトドールのアイスコーヒーブラックを注ぐと丁度の量が出てコーヒーパックは空になった。アヤノはそれを小さく潰して捨て、グラスに氷を3つ入れてストローをさして「アイスコーヒーブラック、あがりました。お願いします」とホールスタッフに渡すと冷蔵庫の予備保管スペースから新しいアイスコーヒーをもってきて補充。そこまではみんなやる。しかし、アヤノはそのアイスコーヒーを開けてから補充したのだ。なんという気遣い。次の人が使う時のことを考えている。たしかに、忙しい時などは入れようとしたコーヒーパックが未開封だと(うっ!)と思うものだ。かと言って急いで開けようと
95.第三十二話 僥倖を待つな 少し前からメタは本人たっての希望で中番を選択していた。中番とは17時出勤の一番割に合わないシフトである。忙しい時間帯のみの担当。それを希望する人なんか普通いないから毎月交代で誰かが順番で担当するなりアルバイトにやってもらうなりするものなのだが、それをメタは自らやりますと言い出した。 その理由は今月から入ったアヤノのシフトに被せるためだとコテツは察していた。 遅番ではアヤノとの接点はほぼないに等しいのでなんとかして接点を作るために割に合わない中番を希望したのだ。 なので、シフト調整を担当しているコテツはなるべくアヤノとメタのシフトを被るように作ってあげた。メタにもアヤノにも恩はあるのでこのくらいの協力はしてやりたかった。 今の早番はコテツ、ナナロー、アヤノがメインであとはマサルがいたりいなかったり。エリがいたりリカがいたりだ。 中番はメタ 遅番はスグルとリョウスケと並木さんとマサルがいたりいなかったり。 その他は社長の応援やジンギの助け、1号店からのレンタルスタッフでやりくりしている。 店の繁盛具合からしたらまだ人手は足りてないがピンレートの雀荘で働ける人材というのはいそうでいないのが現実である。 資格は必要ないし単純な作業ばかりだが、麻雀というネックが大きすぎる。雀荘店員はお客さんと一緒に麻雀をするという業務がある、これがリスキーで、ものの45分程度で日給の半分以上を失うことも普通にある。その失った額は店持ちとかではなく全て自腹。つまり、麻雀が強くなければこの仕事は給料が出ないということ。何年も続いている店員はどんなに見た目が弱そうでも絶対にそんなことはなくて、その道で凌ぐことの出来るプロフェッショナルなのである。 それになれる人材というのは本当にごくごく一部の人だけ。10両編成の満員電車を端から端まで見て回っても多分10回以上見て1人いたらいい方だろう。選ばれし者にのみ選択する事が出来る職業なのである。常識を全
94.第三十一話 楽しんで生きる 美織が産まれてからのコテツは更に強くなってしまった。 ただでさえ手がつけられない幻術使いのような麻雀で惑わしてくるのに、そこに親としての責任感からか無駄な失点をしない高い守備力まで発揮している。この守備力はまるでアキラの麻雀だ。コテツは無敵の境地に達しようとしている。同番のナナローはそう感じたと言う。 しかし、それはほんの1ヵ月だけだった。やはりコテツの本来の麻雀は遊び心を持つ麻雀。楽しむ麻雀なので守備力は高くはなりえない。それでいい。それで勝ってこそなのである。そして、コテツはそのやり方で勝てるのだ。「なんか、戻りましたね」とナナローに言われた。「これでいい。無敵の境地に達するよりも、楽しんで生きることがオレの価値観だってこと思い出したよ。焦ってたんだな。この1ヵ月。父親になったからさ。でも、焦って生活賭けてる奴なんかと遊んでもお客さんは楽しめないだろ? おれの麻雀はこれでいい。この麻雀で勝ってこそおれの仕事なのさ」「そういうもんですか」「ナナローにもいずれわかる」 スタイルとかプライドとかはまだナナローには分からない。ただ勝ちたいだけのナナローにはまだ難しい話であった。「おれはコテツ! 法術師のような魔法の麻雀の使い手としてこそ輝く! 騎士のような守備力で魅せるのは守護騎士のアキラだよ。もう辞めちゃったけどな。ナナローの前はアキラが早番の要だったんだよ」「へええ」 と、そこに中番のメタが本走から戻ってきた。「あ、アイツは闘士だね。闘士メタ。力でねじ伏せる破壊力の麻雀」「それは見た目がデカいからそういうイメージなんじゃなくて?」「違う違う、ホントにそういう麻雀なんだよ。打点の作り方は勉強になるぞ」
93.第三十話 無力を知る「じゃあ、もうおれたち帰るから」「おう、ありがとな。おれは…… もう、寝る」 コテツは今にも眠りそうだった。普段からふたえがくっきりとした眠そうな顔をしているコテツだが、それがさらに際立っていた。「そうしろ、おまえもうここで寝そうだけどちゃんと布団行けよ? 鍵は開けといていいのか?」「大丈夫だ、開けたままでいい。じゃあな、今日は本当に助かったよ。アヤノさんもありがとう」「お気になさらず。私は元々ヒマでしたから。あ、冷蔵庫に明日食べるものを作り置きしておいたので明日お腹空いたら食べて下さい」「わかった。明日食べる。ありがとう」「いえいえ、お口に合うかわかりませんが、栄養はあるので摂って下さいね」 「じゃあ」「うん、ありがとう」「お邪魔しました」 ガチャ、……ガチャン 2人は帰った。 そのあとコテツは直ぐに眠りについてしまったようで気がついたら朝だった。 ケータイを確認する。シオリから一通連絡が来ていた。産まれたのだろうか。“まだ産まれない” とだけ書かれていた。相変わらずの文章だ。と思ってコテツは微笑む。この感じが好きなんだ
92.第二十九話 アヤノ料理長「ところでお前なんでオレに大丈夫とか聞いてきたわけ?」「自分でわかんねえのかよ。さっきの麻雀酷かったぞ」「もう記憶にねえや。棄権したかったけど棄権の方法もよくわかんなかったし。ただなんとなく打ってやり過ごしたから」「東1局の三元牌処理に続いて東2局のリーチのみ。それだけ見ればもうオマエに何かあったと確信できる内容だったよ」「凄い信頼関係ですね。それだけでわかるなんて」とアヤノは心底驚いた。 「ああ、メタは麻雀オタクだから」「お前だってそうだろ」「メタ?」「あ、メタは髙橋のアダ名だからアヤノさんもそう呼んでやってよ」「そうなんですか『メタさん』ふふ、なんかかわいいかも。私、お粥作りますね。キッチン借ります」「ありがとうね。アヤノさん」「おい、アイス食うか? ポカリもあるから飲めよ」と、メタが買い物袋から何個かのアイスとポカリを取り出す。「ありがとう、それ。レモンのやつもらうよ。買い物いくらした? 金払うから」「そんなんいいよ。病人はいらんことを気にせずにゆっくり休めよ」「でも」「いいから!」「たく、お人好しが……」「なんかいいですねえ。うちの店のスタッフの関係性とは大違いです」 アヤノは心底羨ましそうだった。コト アヤノがお粥を置く。腕の筋力があるのか、けっこう重い食器をとても静かに、丁寧にテーブルに置いた。「ふーふーして食べて下さいね♡」
6.第六話 計算女王 シオリ シオリは計算機のような女だった。一流大学大学院まで行って化石の研究チームにまで入って勉強していたが時給の高いアルバイト先の雀荘で「本走入れればもっと時給上がるよ」と言われて麻雀を覚え「プロになればさらに時給上がるし今なら社員旅行で沖縄も行けるよ」と言われたのでプロ試験を受けた。結果はなんと首席合格。大学院は2年で辞めてプロ麻雀プレイヤーとしての道を進む。 シオリは瞬く間に頭角を表した。時給UP&沖縄旅行目当てでしかないのでプロリ
5.第伍話 4人目の男 アキラ お父さんは普通のサラリーマンで夜6時に帰ってくる。お母さんはスーパーのレジのパートタイマーとして働いていてごく普通の家庭に育った。 特別なことはなく、どこにでも当たり前にある平凡な暮らしをしていたと思う。 妹が1人いて兄としてしっかりしないとという気持ちはあったから普通に進学して普通に就職を何となくだけど目標にしてた。 特別とは程遠い普通の人。それが自分。 そう自己紹介するのは4
4.第四話 コードネーム ジンギ いわゆる義賊の真似事だった。 悪人から大金を巧妙に騙し取って。表に出せない金だから泣き寝入り。そんな、悪人を騙しまくる天才イケメン詐欺師ギンジ。 巷ではその悪人だけ狙った義賊的な活躍からコードネーム『ジンギ』と呼ばれていた。 ジンギが悪党から奪った金は2億円にもなった。 それだけあればもうリスクを背負って詐欺を働く必要もないと思い、そこで詐欺師稼業か
3.第三話 責任者 マサル マサルは家庭環境に恵まれていなかった。 幼少期に両親が離婚していて母と姉との3人家族で質素な暮らしをしていた。 趣味と言えば将棋で。いつも近所に住む同年代の仲良し3人組で将棋を指していた。 マサルには将棋の実力があったが、3人の中では1番強いのはシンイチ君で、マサルは2番手か3番手の実力だった。 マサルの学力は高くて、中学に入学してからも難なく学力テストは